■大学入試に公式証明が頻出する理由(微積分以外)
近年は、定理や公式を証明せよ、という問題がかなり増えています。これは暗記するばかりで中身を理解していないのではないかという一種の警鐘だと思います。
出題する先生方の多くは、大学1・2年生に数学を教えている先生方だといわれています。「受け入れてみたら何にも知らない」という事件がよく起きているのではないかと想像します。
問題は、教科書をしっかり勉強していれば必ず解けるレベルの問題なので、もし公式証明問題があったら「ラッキー!」と喜ばなければなりません。ほとんどが[A]ランクです。
このような試験の出題傾向のみならず、公式の成り立ちや根拠を理解しておくと、公式を「度忘れ」した場合、あるいは記憶が不確かな場合には、もっと基礎的なところに戻って確認することができます。あやふやな記憶で間違いを犯すよりははるかに安全でしょう。「急がば回れ」です。
実は筆者は「暗記が大の苦手」で、2次方程式の解の公式もうろ覚えで、いつもその場で作っていました。ですから三角関数の公式はいつも、基本の公式に戻って確認していました。そして、暗記が苦手でも、東大現役合格は達成できました。
●幾何の基礎
珠玉の名問あつかいするのはちょっと苦しいのですが、恐ろしく簡単な幾何の問題が2012年に出題されたので紹介しておきます。京大で幾何の基礎知識の不足が問題視されたのでしょうか。
[A]幾何の基礎の問題(京大2012年文4理5)
[B]三角形の中線の交点の内分比の証明(2010年佐賀大/教育3)
●数の基礎
[B]有理数・無理数の和・積・べきが有理数か無理数かの問題(2007年佐賀大文系)
[A]対数の理解の確認問題(2009年愛知教育大1)
●数列の問題
[A]等差数列と等比数列の公式の証明問題(2009年佐賀大/教育3)
[B]自然数列の和の証明・計算問題(2006年佐賀大/教育11)
[B]自然数列nのk乗和(k=1,2,3)の公式(2010年九大文系4)
●三角関数の問題[円周率とは何か]
あくまで想像ですが、先生方と学生の会話で、「円周率とは何か」という話題が持ち上がって、「円周率って3.14?」とかいう「とぼけた」答えが学生から出たのではないでしょうか。本人はボケたつもりだったのかもしれなのですが、確かにそんな学生がいた時代もあったと思います。それに加えて一時小学校で、「円周率は3として計算してよい」という時期がありました。これらに対するアンチテーゼがこの問題「円周率が3.04より大きいことを証明せよ」(20文字、2003年東大理科6)です。
[C]円周率は3.05より大きいことを示す問題(2003年東大理科6)
この短い問題に、受験生が唖然としたことでしょう、短さにも、中身にも。すると今度は京大で「tan1°は有理数か」(10文字、2006年文理後期)という、文章が完結もしていないような短い問題が出題されました。これは何らかの対抗意識が働いたのでしょうか。確かに「短いほど良い」という風潮が理学部にはあります。
[C]tan1°が無理数であることを証明する問題(2006年京大後期文5理6)
●三角関数の公式を証明する問題
三角関数の加法定理は、なかなか覚えにくいのですが、三角関数の根底をなす定理です。なんと1999年の東大入試には、この定理を証明させる問題が出題されました。この問題の正答率は非常に低かったそうです。
[A]三角関数の加法定理の証明(1999年東大文1理1)
その他2008年には、3倍角公式、和積公式や正弦定理に関する問題も出題されています。積和公式は新学習指導要領で新登場なので、今後出題されるかもしれません。新作問題として挙げておきます。証明は和積公式の逆算にすぎません。
[A]3倍角の公式の証明(2005年熊本大文系2)
[A]和積公式の証明(2008年埼玉大文系1)
[A]積和公式の証明(新作問題)
[A]三角関数の合成公式の証明(2011年佐賀大理系11)
[A]正弦定理の証明(2008年佐賀大/教育1)
●図形と方程式の公式を証明する問題
この分野では次の公式の証明が多分もっとも難しいでしょう。またその次の三角形の面積の公式の証明の1つの手段としても利用されます。なお最後に、円の接線の公式と、新学習指導要領で公式に認められたヘロンの公式の証明問題も示しておきます。ヘロンの公式は、新学習指導要領にしたがう最初の入試である2016年入試では必ずどこかの大学で出題されると思われます。これらの証明は非常に簡単です。図形と方程式の範囲で、公式証明問題として考えられるのはこれらくらいでしょう。
[A]点と直線の距離の公式を証明する問題(2013年阪大文系1)
[B]三角形の面積の公式(新作問題)
[B]ヘロンの公式(新作問題)
[B]円の接線の公式(新作問題)