1.「受験準備できない問題」としての歴史的位置づけ
日本の大学入試の数学問題において、「整数問題」は特異な問題であり、特に難関大学においては、合否を分ける重要問題です。その背景には、長い間「学習指導要領(以下、要領)」には「整数の性質」という単元はなく、「教科書にない」という歴史がありました。
難関大学は、中学校で習う素因数分解や、高校の「式と証明」の知識だけで解けるという大義名分のもとで、高度な整数問題を好んで出題し続けました。そのため、この時代の整数問題は、「受験準備できない問題」であり、定型的なパターン学習や、予備校による網羅的な受験テクニックが通用しませんでした。そして難関大学は、限られた既知の道具を用いて、未知の状況に対してどのように試行錯誤し、論理を組み立てられるかという、受験生の「生の論理的思考力」を測る網として整数問題を利用してきました。
2. 2009年の指導要領改訂
やっと2009年に告示された指導要領改訂において、数学Aに「整数の性質」という単元が初めて正式に
組み込まれ、「ユークリッドの互除法」や「一次不定方程式の整数解」などが登場しました。このときから、整数を扱うための標準的なアルゴリズムや定理が、すべての高校生に共通の「基本知識」となりました。
| ア | 整数の性質 | 素因数分解を用いた公約数や公倍数の求め方を理解し,整数に関連した事象を論理的に考察し表現すること。 |
| イ | ユークリッドの互除法 | 整数の除法の性質に基づいてユークリッドの互除法の仕組みを理解し,それを用いて二つの整数の最大公約数を求めること。また,二元一次不定方程式の解の意味について理解し,簡単な場合についてその整数解を求めること。 |
| ウ | 整数の性質の活用 | 二進法などの仕組みや分数が有限小数又は循環小数で表される仕組みを理解し,整数の性質を事象の考察に活用すること。 |
この変化は2015年度の入試試験から現実のものになり、以降教科書や参考書に問題が網羅され、受験対策が「だいぶできる」ようになりました。かつての多くの難問が、パターン化された解法(アルゴリズム)の適用によって「準備できる問題」になりました。
3. 2025年から発生したねじれの構造
しかし、2022年度から適用された指導要領の改訂に起因して、2025年の「大学入学共通テストから整数問題が出題されなくなったのですが、難関大学の二次試験においては、依然として高度な整数問題が出題され続けています。ここから、「共通テストでは範囲外」と「二次試験では出題」という「ねじれ構造」が発生しました。そしてこれは、大学側が求めているのが「教科書のパターンを暗記した受験生」ではないということを意味しています。
4.整数問題は12パターン
難関大学は長い間「受験準備できない問題」として整数問題を出題してきましたが、このような歴史の中で、実はその問題の9割までが「受験準備できる問題」となってきています。素養としてはわかっているはずの素数や「互いに素」の扱いが、他の整数分野と組み合わせられると食いつきにくい問題であることに変わりはありませんが、ガウス記号などのかつての新記号問題も繰り返し出題されれば新記号問題とは呼ばれなくなりました。
「整数問題」は一種の総合問題であり、方程式、整数の性質、2項定理、数学的帰納法など、さまざまな分野の知識を総動員する問題です。整数問題の面倒な点は「どの方法を使えばよいのかわかりにくい」という点であり、だからこそ、公式一辺倒では解けない問題を出してきます。しかし整数にも次のような特徴があり、これらを利用できる問題は解き易い問題です。
- 最低限1つおきのとびとびの値をとる
- 割り算すれば、余りで分類できる
- 素因数の積に分解できる⇒約数・倍数の関係を利用する
次項から、上の「9割の整数問題」を次のように12のパターンで解説します。これらは「受験準備できる問題」です。
- [1]不定方程式・不等式として解く問題
- [2]ユークリッドの互除法の問題
- [3]各桁の数を未知数とおいて求める問題
- [4]剰余類を使う問題
- [5]ガウス記号などの新記号問題
- [6]約数の数と合計の問題
- [7]素数と倍数の性質を使う問題
- [8]「隣り合う整数は互いに素」を使って解く問題
- [9]多項式の整数性などの問題
- [10]整数に関する証明問題
- [11]有理数・無理数の問題
- [12]二項定理・多項定理